意外に身近な環境問題、土壌汚染について考える
私たち人類を含む生物のほとんどは、直径およそ1万2,700kmの地球の表面で生活しています。
もっと詳しく言えば、陸地部分でも厚さ30~60kmほどしかない地殻の表面に、重力の力でくっついて暮らしているわけです。
人類にとっての土壌の重要性
しかも人間のスケールからすると、私たちが土壌と呼ぶ部分は、地殻の表面のわずか厚さ数メートル。
ただし、この極めて薄い土壌が健全ではないと、私たち人類を含めた生物は健康的に命を保つことはできません。
私たちは土壌の上で米や野菜を作り、家畜を飼い、そこを流れる水を飲んで生きています。
土壌が健全さを保てなくなることは、私たちの命に関わることです。
土壌汚染がいかに重大な問題であるかが分かるでしょう。
さまざまな土壌汚染とその現状
土壌汚染とは我々人類の視点からすると、人体にとって有害な物質が土壌内に蓄積して、生活上のさまざまな問題を引き起こすことです。
場合によっては大気汚染や、水質汚濁などの2次的な問題の原因にもなります。
現在でも日本各地で土壌汚染が問題になっており、小さな事例まで含めれば全国で数十万ヶ所とも推定されています。
国内の土壌汚染
一例を挙げてみると、東京都の豊洲新市場の複合的汚染はかなり大規模な環境問題に発展しました。
他にも工場跡地などでのダイオキシンやヒ素による汚染や、ガソリンスタンド跡地での鉱物油による汚染など、身近なところでも土壌汚染は多発しています。
そして全国規模での土壌汚染と言えば、2011年の福島第一原発事故による放射能汚染が挙げられ、未だに解決には至っていません。
環境省の調査によると、国内での土壌汚染事例数は年々増加傾向にあり、特に大都市圏を中心に広がりを見せ、表面の土壌のみならず地下水への汚染の広がりも、大きな環境問題になっているようです。
土壌汚染の原因とは?
土壌汚染の原因は多種多様であり、複数の環境問題が複雑に絡み合っています。
その中から主な原因として、特に注意しなければならないことを挙げてみましょう。
有害物質による汚染
例えば工場が移転や閉鎖する場合など、使用していた化学物質がその跡地に蓄積する場合があります。
こうした物質は地下水と共に流れ出したり、大気中に飛散したりする可能性があるので、長期的な管理が必要です。
廃棄物による汚染
工業、農業、そして家庭内から排出されるゴミなどを不法投棄することによっても土壌汚染が引き起こされます。
過去には大量の産業廃棄物を埋め立て処分したことにより、周辺土壌や地下水が汚染される事例もありました。
大気汚染との複合汚染
これも工業や農業、または自動車の排気ガスなどによって引き起こされる環境問題ですが、大気中を浮遊する有害物質が落下して蓄積することで、土壌汚染が進行することもあります。
この場合は大気汚染との複合汚染になることで、リスクがさらに重大化する可能性もあります。
農薬による汚染
農薬は農業分野以外で、ゴルフ場や公園などでも使用されます。
適切な使い方をすれば、一定期間で人体には無害化すると言われますが、長期的な影響については未だによく分かっていません。
一度過剰な農薬で汚染された土壌では、長期間作物を作ることができず、地下水への2次的な汚染も深刻です。
放射性物質による汚染
本来自然ではあり得ない土壌汚染の原因として、人為的事故による放射能汚染にも目を向ける必要があります。
放射性物質は目に見えない上、人類の時間的尺度では測れないほど長期的な影響を及ぼします。
その人体への有害度の高さからも、最も危険な土壌汚染の1つと言えるでしょう。
土壌汚染解決への取り組み
土壌汚染の恐ろしさは、私たちの身体に直接被害を与えることです。
重度に汚染された土壌では、作物を栽培することはおろか、その他の社会的活動すべてが不可能になります。
では、この事態を打開するため、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。
汚染の抑制
まず公的機関による取り組みとしては、「土壌汚染対策法」によるリスク管理が挙げられます。
リスク管理とは、人体への環境リスクや社会的リスクなどを定期的に分析して、土壌の汚染度を許容レベル以下に抑制することです。
放射能汚染で広く知られるようになったモニタリング調査や、リスク評価、浄化・修復処理など、現在国や自治体が中心となって、さまざまな取り組みが行われています。
もちろん、土壌汚染を発生させないための対策も含まれています。
汚染物質の分解
さらに民間レベルでは、近年バイオ技術によって汚染物質を分解する取り組みが始まっています。
この技術では、汚染物質を分解・浄化できる微生物を利用して、安全にしかも広範囲に、汚染された土壌を元の安全な土壌に復元することができます。
私たちにできること
現在一般家庭のレベルでは、下水道の普及により汚染水が土壌に蓄積する危険性はなくなり、ゴミも分別して回収されるため、私たちが土壌汚染の当事者になる可能性はほとんどありません。
その中で今、私たちにできることは、身近で土壌汚染が起きた場合や、ゴミの不法投棄などがあった場合に、すみやかに行政に対して報告して対策を求めることでしょう。
また、これから社会に出る世代に、環境問題に対する知識を啓蒙する必要もあります。
土壌汚染は身近な環境問題であり、その影響が長期的に続くという恐ろしさもあります。
土壌汚染を防ぐためには、まず汚染源を作らないことと、作らせないように社会全体で管理することが重要なのではないでしょうか。